長崎皿うどん太麺

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私が社会人となって数年後のこと、仕事上、長崎に数ヶ月の滞在をすることになった。御船町の傾斜地に一軒家を借り、私の上司とそこで寝食を共にする日々が始まった。
その上司は、8㎜ビデオカメラに凝っておられ、仕事を終えた後はよくグラバー園などに行き、長崎の港や街を撮影して楽しんでおられた。私にもムービーの撮影をしてみたらと薦められ、当時の私の給与ではとても買えないと思われた「ターレット式の8㎜撮影機」をその上司からお下がりとして戴いた。そればかりではなく、食べ物についても、とてもぞうけいの深い方で、食のあれこれを沢山教わったものだ。

長崎新地中華街の入口

横浜・神戸とともに日本三大中華街と呼ばれる長崎新地中華街は、グラバー園とはそう遠く離れていない距離にあった。長崎に入って、仕事も宿舎の整理も落ち着きを取り戻したある日、夕食を長崎新地中華街でとろうと上司に案内された。その時の新地はすでに陽が暮れていて、今日の様に、ビルが建ち並んでキラキラと照明が輝く光景からは想像もつかないほどの暗い町…という記憶しかない。

今の新地の四辻

小雨があがった後だったか…舗装のない路地は暗くてべちょべちょ。中華の食堂の建物の大半は軒の低い平屋で、その入り口には裸電球がひとつ灯っていた。
もう今から半世紀に近い昔の話となる。 その時代、長崎を初めて訪れた人が、新地中華街の真ん中の四辻に立っていながら、新地はどこかと訪ねたらしい。その人は、新地がもっと賑やかな街だと想像していたのであろう。夜はなおさらのこと、薄暗く目立たぬ街だったのである。
そうした頃、上司と私は一緒に、新地の食堂の引き戸を開けて中に入った。…中にも裸電球が幾つか灯ってはいたが…周りがはっきりと見渡せないほどに薄暗かったのを覚えている。

テーブルにつくなり、上司は「皿うどん太麺を二皿ちょうだい !」と店の人に声をかけた。退屈する間もなく料理が運ばれてきた。….ぅむ ?…「こいはなんね ?」。家庭料理の「ちゃんぽん」しか知らなかった私の目には….「汁のないちゃんぽん」だと見えた。さっそく口にほおばる。麺には弾力があり、複雑な旨味のあるスープが染み込んでいて濃厚な味が口いっぱいに広がった。そのときに感じた美味しさは、私には今でも言葉では表現できない。以来、こんにちも…私の一番の好物は、この「長崎皿うどん太麺」となっているのである。

美味しい「皿うどん太麺」の夕食を終えて、夜のグラバー園に入り、灯りがともる綺麗な湊や夜景を写真におさめる…長崎滞在の日々は、そんな楽しみ方が多くなっていった。

長崎新地中華街の歴史は、江戸時代にまでさかのぼり、中国からの貿易品の倉庫を建てるために、海を埋め立ててできた街なのである。南北250㍍の十字路には石畳が敷かれ、中華料理店や中国雑貨店など約40軒が軒を連ねている。
毎年、中国のお正月である春節には、湊公園でランタンフェスティバルが開催される。今ではこの燈会ランタン」は、この新地だけにとどまらず、長崎の街全体に広がりを魅せ、長崎市の一大イベントにまで発展している。この時季がくると、我が家の家族も決まって長崎に出掛け、皿うどん太麺を食べては燈会「ランタン」を楽しんでいる。

春節の飾り付けがなされた長崎新地中華街

湊公園・燈会(ランタンフェスティバル)のメイン会場

ところで長崎の「ちゃんぽん・皿うどん」はどのようにして生まれたのだろうか。
長崎に移り住んでいた福建省の人たちの中に「陳平順」がいた。当時、貧しい中国人留学生に、安くて栄養のあるものを食べさせようと、野菜くずや肉の切れ端などを炒め、中華麺を入れてスープで煮込んだボリュームたっぷりの料理を作った。これが長崎ちゃんぽんの始まりと言われている。そして、このチャンポンを出前用にアレンジし、配送時にこぼれないよう「汁」を少なくした…「長崎皿うどん」のおこりである。このような経緯から、麺や具材は「ちゃんぽん」も「皿うどん」もほぼ同じなのである。

ここで、話を「皿うどん」に絞ってお話したい。
観光客や長崎以外の地域の人に聞くと、「あぁ、あの細いパリパリの麺のやつでしょう」と言われてしまう。皿うどんに細麺」と「太麺」のあることは、長崎人なら常識なのだが、「太麺」は地元以外ではあまり知られていないのである。是非この「太麺」をご賞味ねがいたい一心で、このブログを書いているのである。

さて、「太麺」と「細麺」…どっちが美味しいか ?…白黒をはっきりつけたい ! …そんな気分になるので少しふれておくが。….九州の地方銀行系シンクタンク6社が行った調査によると、97対91で「太麺」の勝ちとなっていた。ソフトな食感の「太麺」、地元では普通に知られている「ツウな食べ物」が「長崎皿うどん太麺」なのだ。
私をおよそ半世紀の間とりこにしてきた「長崎皿うどん太麺」の美味しさの秘密はいったい何なのだろうか。皿うどんは麺料理であるから「麺」が命であり、「そのものの美味しさが決め手となっていることぐらいは分かる。その「麺」には、なんとも言葉では表現できない魔法にも似たスープがからんでいるのだ。そして、この麺のコシを高めるために「かんすい」というものが用いられているらしい。

過去…我が家では、この長崎新地のお店の味が何とかだせないものかと….家内や嫁たちが何度も挑戦してくれた。わざわざ無理をして日もちのしない生麺を買ってきて煎る…すると麺は熟成し、味の深みが増し、海綿状になった麺にスープが染み込み、濃厚な味を作り出すはずなのだが….む???…プロの味は、そう簡単には作り出せない。少しは近づけたこともあったが、未だに完成をみていない。今では諦めて、食べたくなったら新地に出掛けることにしている。

人それぞれに嗜好は違うのが当たり前なので断っておくが、長崎新地での、我が家の家族みんなが大好きな味をだしている中華店は、「京華園」と「江山楼」である。
これらのお店に行くと、「お好みで、酢やオイスターソースをかけてお召し上がり下さい」と店の人が言う…が、私はいっさいかけない方が美味しいと思っている。食べ慣れていない方には特に、これらのソース類はお薦めしません。

終生手放せないだろう好物「長崎皿うどん太麺」….だが年齢とともに気になる悪玉コレステロール….そのために薬も服用しているし….まぁーいいか….これから長崎へいってきま〜す。

 

 

 

 


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